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福岡県のワンヘルスとは何だったのか|蔵内勇夫と巨大事業、その始まりから見直しまで

福岡県のワンヘルスとは何なのか まちと政治
この記事は約17分で読めます。

「人の健康、動物の健康、環境の健全性は一つ」。

ワンヘルスを短く説明すれば、こうなります。

人から動物へ、動物から人へ広がる感染症。薬が効きにくくなる薬剤耐性菌。森林や水、農林水産物、野生動物、ペットとの共生。人間の健康だけを切り離さず、医療、獣医療、環境などの分野が連携して考える世界的な枠組みです。

しかし、福岡県のワンヘルスは、一つの理念にとどまりませんでした。

条例がつくられ、県の行動計画ができ、みやま市では総事業費約204億円の拠点整備が始まりました。筑後広域公園には約3億5000万円のモニュメントが造られ、福岡市には県が運営費を支える国際組織の事務所が置かれました。ワンヘルスは学校教育、農林水産物の認証、森林、イベント、国際会議、映画にまで広がっています。

その中心にいたのが、筑後市選出の県議であり、日本獣医師会会長でもあった蔵内勇夫氏です。

そして2026年、福岡県政をめぐる一連の問題をきっかけに、服部誠太郎知事はワンヘルス施策を「ゼロベース」「聖域なく」見直す方針へ転じました。

では、福岡県のワンヘルスとは何だったのでしょうか。

結論を先に書けば、福岡県のワンヘルスは、世界的な公衆衛生の理念を、感染症対策だけでなく、施設整備、教育、農林水産業、国際交流、普及啓発まで束ねる県独自の巨大な政策体系へ変えたものでした。

問題は、理念が間違っていたことではありません。あまりに多くの事業を同じ言葉で包み、何がワンヘルス固有の事業で、何がもともと別の目的を持つ事業なのか、県民に説明できなくなったことです。

この記事では、施設、予算、団体、政治家、教育、国政の動きをつなぎ、福岡県のワンヘルスの全体像を整理します。

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最初に整理|福岡県のワンヘルスには三つの顔がある

福岡県のワンヘルスが分かりにくいのは、性質の異なる三つのものが、同じ「ワンヘルス」という言葉で語られてきたからです。

三つの顔内容
世界的な公衆衛生の理念人、動物、生態系の健康を一体で考え、感染症や薬剤耐性菌などへ分野横断で対応する考え方
福岡県の行政政策条例と行動計画に基づき、感染症、環境、農林水産業、教育、施設整備などを束ねた政策体系
福岡発の地域・政治プロジェクト「福岡宣言」、国際会議、FAVA福岡オフィス、国政への要請などを通じ、福岡を先進地として発信する動き

この三つは重なっていますが、同じものではありません。

ワンヘルスという理念が必要であることは、福岡県が実施したすべての事業が必要だったことを意味しません。反対に、県の一部事業に問題があったからといって、人獣共通感染症や薬剤耐性菌への対策まで不要になるわけでもありません。

総括の出発点は、理念と事業、そして福岡という地域ブランドを切り分けることです。

そもそもワンヘルスとは何か

ワンヘルスは、福岡県や蔵内勇夫氏がつくった言葉ではありません。

世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、国連環境計画(UNEP)、世界動物保健機関(WOAH)は、人、動物、植物、生態系の健康が密接に結び付いているという考え方のもと、分野を越えて課題に取り組んでいます。

代表的な対象は次のようなものです。

  • 動物と人の間で広がる人獣共通感染症
  • 抗菌薬が効きにくくなる薬剤耐性菌
  • 食品の安全と家畜・野生動物の衛生
  • 森林破壊や気候変動による感染症リスクの変化
  • 人、ペット、野生動物が共存する環境づくり

新型コロナウイルス感染症によって注目が急に高まったように見えますが、医学と獣医学を連携させる発想には長い歴史があります。

福岡県が行ったのは、この国際的な理念を県の条例と予算へ落とし込み、独自の政策体系として大規模に展開したことでした。

2016年の福岡宣言から県の重点政策へ

福岡県のワンヘルスをたどると、いくつかの節目が見えてきます。

年月出来事福岡県のワンヘルスにとっての意味
2013年6月蔵内勇夫氏が日本獣医師会会長に就任獣医師会を基盤にした全国的な推進の中心へ
2016年11月北九州市で世界獣医師会と世界医師会の国際会議、「福岡宣言」を採択国際的な理念と「福岡」の名前が結び付く
2020年12月福岡県ワンヘルス推進基本条例を議員提案で制定理念が県の制度と政策になる
2022年3月福岡県ワンヘルス推進行動計画を策定各部局の具体的な事業を七つの柱で体系化
2022年10月ワンヘルスの実践促進に関する条例を議員提案で制定認証、野生鳥獣、森林、水環境など実践分野を拡大
2022年11月蔵内氏がFAVA会長に就任、福岡県とFAVAが事務所設立の覚書国際組織の拠点を福岡へ誘致
2023年3月自民党ワンヘルス推進議員連盟が設立福岡で先行した構想が国政の要請ルートへ入る
2023年8月FAVAワンヘルス福岡オフィスが開設県費で支える国際活動拠点が常設される
2025年ワンヘルスボンド50億円を初めて発行、センター起工政策が長期の施設整備と資金調達へ進む
2026年国の施策化が進む一方、福岡県は事業を凍結・検証推進一辺倒から、必要性と妥当性を問う段階へ

2016年の国際会議から2026年の見直しまで、ちょうど10年です。

この10年間に、ワンヘルスは獣医師と医師の連携を示す言葉から、福岡県の複数部局、市町村、学校、企業、国際組織、国会議員を結ぶ政策の看板へ変わりました。

六つの基本方針が政策を大きくした

福岡県は、ワンヘルスの実践について六つの基本方針を掲げています。

基本方針主な内容
人獣共通感染症対策医療、獣医療などが連携した発生予防とまん延防止
薬剤耐性菌対策抗菌薬の適正使用など
環境保護自然環境の保全
人と動物の共生社会づくり動物愛護、野生動物の理解と共存
健康づくり自然や動物との触れ合いによる健康増進
環境と人と動物のより良い関係づくり安全な農林水産物、食育、地産地消

行動計画では、この六つに理念の普及や中核拠点の整備といった「実践の基盤整備」を加え、七つの柱で事業を整理しました。

感染症だけでなく、森林、農業、食育、動物愛護、健康づくりまで含めたことで、ほぼすべての県庁部局がワンヘルスと接点を持てる仕組みになりました。

これは分野を越えて連携するという理念の強みです。

同時に、どこまでをワンヘルスと呼ぶのかという境界が見えなくなる原因にもなりました。

蔵内勇夫氏は何をつないだのか

福岡県のワンヘルスを一人の政治家だけで説明することはできません。

条例は県議会の議員提案で制定され、予算案をつくり、事業を執行したのは県です。議会は予算を審議し、服部県政はワンヘルスを県政の柱として大規模に実装しました。

それでも、蔵内勇夫氏の存在を外すと、政策がどのように広がったのかを説明できません。

蔵内氏は、県議会議員であると同時に、日本獣医師会会長を務めました。さらにアジア獣医師会連合(FAVA)の会長、FAVAワンヘルス福岡オフィス所長など、複数の立場を持ってきました。

県議会、全国の獣医師組織、アジアの国際組織。その間に同じ人物が立っていたことになります。

この重なりによって、次の流れが生まれました。

  1. 獣医師会でワンヘルスを政策課題として掲げる
  2. 福岡県議会で条例と推進体制をつくる
  3. 県が施設、教育、国際交流へ事業を広げる
  4. 日本獣医師会から国会議員と省庁へ支援を求める
  5. 福岡で進めた構想を全国政策の先行例として示す

蔵内氏が個別の予算や契約を一人で決めたということではありません。政策を提案する業界団体と、それを制度化する県政、国に支援を求めるルートのそれぞれに、蔵内氏の接点があったことです。

蔵内氏の獣医師としての経歴と、日本獣医師会、FAVA、福岡ワンヘルス協議会などの関係団体を並べると、その構造が見えやすくなります。

構図として見れば、ワンヘルスは「服部知事が一からつくった政策」ではありません。県議会側と獣医師会側から形づくられた政策を、服部誠太郎知事が県の重点政策として大規模に実装したものです。

そして2026年、県議会と執行部の関係そのものが問われたことで、服部知事は初めて推進する側から、政策を選別する側へ立つことになりました。

277の取り組み|「何でもワンヘルス」は印象論ではなかった

福岡県が2026年8月に行政改革審議会へ示した資料は、ワンヘルス政策の広がりを数字で表しています。

2025年度実績では、行動計画に基づく取り組みは277件ありました。

県があらためて二つに分類すると、内訳は次のようになりました。

分類件数割合
「人の命と健康を守る」ことに直接関係する取り組み40件約14%
ワンヘルスには寄与するが、本来は別の目的を持つ取り組み237件約86%

直接関係する40件には、人獣共通感染症の調査分析、保健環境研究所の専門人材育成、子どもへのワンヘルス教育などが含まれます。

一方、237件には、有害鳥獣の侵入防止柵、農林水産物の認証、老朽化した保健環境研究所や家畜保健衛生所の移転・建て替えなどが含まれました。

県は、2022年度以降の当初予算でワンヘルス関連予算を公表してきました。しかし2024年度までは明確な基準がなく、本来は別の目的で計上すべき事業まで幅広く含めていたと説明しています。

「何でもワンヘルスに見える」という批判は、外部が勝手につくった印象ではありません。

県自身が、明確な基準なく対象を広げた結果、各事業の目的とワンヘルスとの関係を説明できなくなったと認めています。

ここが、福岡県のワンヘルス問題の中心です。

約58億円、約204億円、150億円を足してはいけない

ワンヘルスをめぐっては、複数の大きな金額が登場します。

ただし、これらは同じ種類の数字ではありません。

数字何を示すのか
5年間で約58億円県が「ワンヘルス関連予算」として整理してきた各年度の予算の合計
約204億円保健環境研究所約163億円と動物保健衛生所約41億円を合わせたセンター整備の総事業費
約180億5000万円センター整備費のうち県債で調達する見込み額
累計150億円2025年の50億円と2026年の100億円を合わせたワンヘルスボンドの発行元本

約58億円に約204億円と150億円を足して、「ワンヘルスに約412億円使った」と計算することはできません。

約58億円は年度ごとの関連予算、約204億円は施設の総事業費、150億円は複数事業へ充てる県債による資金調達です。互いに重なる部分があります。

また、約204億円のセンターには、老朽化した保健環境研究所と、法律に基づいて設置される家畜保健衛生所の移転・建て替えが含まれます。全額を新しい理念の宣伝費とみなすのも正確ではありません。

その一方で、「必要な研究所の建て替え」であることと、整備規模、付加機能、建設地、財源、名称が妥当だったかは別の問題です。

福岡県と徳島県の条例と予算を比較すると、同じ理念や条例を持っていても、約200億円規模の施設や数億円のモニュメントが必然ではないことが分かります。

ワンヘルスの名は施設、国際組織、教育、文化へ広がった

福岡県のワンヘルスは、何に使われたのでしょうか。象徴的な事業を並べると、政策の広がりが見えてきます。

約204億円のワンヘルスセンター

みやま市の旧保健医療経営大学跡地では、保健環境研究所と動物保健衛生所を中心とする拠点の整備が進んでいます。

保健環境研究所では人の健康や環境に関する調査研究を行い、動物保健衛生所では家畜、愛玩動物、野生動物まで視野に入れた衛生業務を担う計画です。施設には研究・行政機能だけでなく、体験学習ゾーンも組み込まれました。

総事業費は約204億円。このうち約180億5000万円を県債で調達する見込みです。建設工事は2026年の見直し後も続いており、2027年度中の供用開始が予定されています。

施設の機能、財源、みやま市が選ばれた経緯は、福岡県ワンヘルスセンターとは何かで詳しく整理しています。

約3億5000万円のモニュメント

筑後市を中心に、みやま市にもまたがる県営筑後広域公園には、ワンヘルス・カーボンゲート、石龍、カーボン・ハットが整備されました。

3作品を合わせた事業費は約3億5000万円です。このうち、隈研吾氏が設計に関わったカーボンゲートの設置費は約2億8000万円と県も説明しています。

県によると、公園の新たなシンボルをつくる計画が先にあり、デザインコンセプトが理念に合うとして、ネーミングの段階で「ワンヘルス」が付けられました。

つまり、最初から感染症対策のために造られた施設ではありません。既存の公園整備計画が、ワンヘルスの象徴として位置付けられた事例です。

久留米ジャーナルは3作品を実際に現地で確認し、案内表示、見え方、約3億5000万円の事業効果を検証しました。

FAVAワンヘルス福岡オフィス

福岡市中央区天神のアクロス福岡13階には、アジア獣医師会連合の日本事務所であるFAVAワンヘルス福岡オフィスがあります。

2023年8月に開設され、蔵内氏が所長を務めました。福岡県は覚書に基づき、賃料、電気使用料、清掃費などを負担しています。開設から約3年間の県負担は約6800万円に上り、県職員延べ5人が無償で派遣されていたと報じられました。

国際会議や情報発信を福岡へつなぐ拠点である一方、運営主体、県費による支援の終期、成果の測り方は見えにくいままです。

FAVAワンヘルス福岡オフィスの設立経緯と公費支援は、個別記事で整理しています。

幼児から大学までのワンヘルス教育

福岡県は、ワンヘルスを独立した一教科にするのではなく、既存の授業、教材、専門家派遣、大学講座などへ組み込んできました。

対象は幼稚園・保育所から小中高校、特別支援学校、大学まで広がっています。2026年度の「ワンヘルス教育推進費」は4059万9000円です。

県議会で特に注目されたのが、就学前の子ども向け絵本でした。8100部の制作に約730万円がかかり、県が公開した絵本本体は表紙を含めて5ページです。契約先は福岡県獣医師会で、特命随意契約でした。

描かれているのは、土、水、植物、動物がつながる生態系の循環です。内容そのものではなく、既存の環境教育や食育に対して、県独自の教材をつくるだけの付加価値があったのかが問われています。

予算、絵本の内容、契約、制作に参加した企業・団体は、福岡県のワンヘルス教育とはで検証しています。

映画『ONE いのちめぐる物語』

ワンヘルスは行政の外にも広がりました。

筑後平野を舞台にした劇場用映画『ONE いのちめぐる物語』は、2026年6月に『ワンヘルスワンライフ(仮)』として発表されました。その後、県の政策に批判が集まるなかで題名から「ワンヘルス」が外されました。

県、筑後市、みやま市は後援や広報面で関わっていますが、現時点で公費による製作助成は確認されていません。県の事業と民間の映画製作を混同すべきではありません。

それでも、理念を伝えるはずだった言葉が、作品名から外さなければならないほど政治的なイメージを帯びたことは象徴的です。

映画の改題、制作団体、ワン・ヘルス・クリエイツとの接点は別記事で追っています。

ワンヘルスボンドは寄付ではなく県の借金

福岡県は2025年に50億円、2026年に100億円のワンヘルスボンドを発行しました。

名称だけを見ると、理念に賛同する企業から資金を集める仕組みにも見えます。しかし、ワンヘルスボンドは福岡県が発行する地方債です。

投資家から借りた元本は県が返済し、利子も将来の県財政から支払います。

2026年発行分は5年債50億円と10年債50億円で、表面利率から単純計算した利払いは約21億800万円です。資金はワンヘルスセンターだけでなく、保健所、県立高校、林道、漁礁などにも充てる計画です。

ここでも、一つの名称が性質の異なる複数事業を束ねています。

見直しによって個別事業が縮小されても、すでに発行した県債の返済義務は消えません。ワンヘルスボンド100億円の資金使途と返済は、政策の看板を変えた後にも残る問題です。

福岡の構想は自民党議連を通じて国政へ入った

蔵内氏が「ワンヘルスはもう国策になっている」と語ったことには根拠があります。

2022年1月、岸田文雄首相は参議院本会議で、福岡県の取り組みも参考にしながらワンヘルス・アプローチに基づく感染症対策を進めると答弁しました。

2023年には国の「骨太の方針」にワンヘルス・アプローチの推進が入りました。2026年2月には高市早苗首相が施政方針演説でワンヘルスを取り上げ、4月には厚生労働省にワンヘルス対策推進室が設置されています。

その国政化をつないだ組織の一つが、2023年3月に設立された自由民主党ワンヘルス推進議員連盟です。

2023年11月時点の主な役員には、最高顧問の麻生太郎氏、会長の林芳正氏、会長代行の武見敬三氏、事務局長の古賀篤氏がいました。大家敏志氏、藤丸敏氏、井上貴博氏、松山政司氏など、福岡選出の国会議員も中枢に入っています。

蔵内氏は議連の役員ではなく、日本獣医師会会長として、国会議員側へ要請する立場にいました。

日本獣医師会と日本獣医師連盟が2023年3月に提出した要請書には、次の福岡関連構想が含まれていました。

  • 九州への「アジア新興・人獣共通感染症センター(仮称)」の設置
  • 福岡県ワンヘルスセンターへの国の支援
  • FAVAワンヘルス福岡オフィスへの支援と優遇措置

福岡県で先行した構想が、日本獣医師会の全国要望に入り、自民党議連を通じて関係省庁へ渡る仕組みがつくられたことになります。

ただし、「要請した」「議連が決議した」「政府方針に入った」「予算が付いて実現した」は別の段階です。国策化が進んだことを理由に、福岡県の個別事業まで自動的に正当化することはできません。

議連の設立経緯、2023年11月時点の役員名簿、蔵内氏が要請する側にいた構造は、自民党ワンヘルス推進議員連盟とはで詳しく整理しています。

また、ワンヘルスを国策として支えた国会議員の説明責任も、蔵内氏の県議辞職だけでは終わらない論点です。

2026年、なぜ見直しに入ったのか

ワンヘルスの見直しは、理念の科学的な誤りが見つかったから始まったのではありません。

県議会の正副議長ポストをめぐる金銭授受疑惑、高額な海外活動、県職員による政治資金パーティー券購入補助、講師謝金の不適切な事務処理などが相次いで表面化し、県議会と執行部の関係そのものが問われました。

その中で、蔵内氏が長年推進してきたワンヘルスにも、予算、意思決定、費用対効果の面から検証の目が向けられました。

日付動き
2026年8月12日服部知事が未着手事業の当面凍結と、政策のゼロベース見直しを表明
8月21日着手済みの一部事業にも見合わせを拡大。対象額は当初分と合わせ約1億3000万円に
8月25日行政改革審議会が検証を開始。同日、蔵内氏が県議を辞職
8月31日発行計画済みだったワンヘルスボンド100億円を発行
9月14日県が「聖域なき見直し」を掲げ、説明できない事業は廃止も含めて検討すると表明

ワンヘルス施策を検証しているのは福岡県行政改革審議会です。海外活動や政治資金パーティー券問題を調べる第三者委員会とは別の仕組みです。

2026年10月13日時点では、行政改革審議会の最終的な答申は出ていません。

何が凍結され、何が中止され、何が継続しているのかを整理すると、現状は次の通りです。

区分現在の扱い
未着手の事業行政改革審議会の検証中は当面凍結
着手済みの一部事業森づくり関連の工事などを一部見合わせ
2026年度の大型イベント開催しない
ワンヘルスセンター建設を継続。名称変更の可能性あり
筑後広域公園のモニュメント完成・支出済みで、凍結対象ではない
FAVA支援、教育など今後の範囲や継続条件を個別に検証する段階

見直しは、ワンヘルスが終わったという意味ではありません。

すでに完成した施設、進行中の建設、発行済みの県債、学校に組み込まれた教育、国や国際組織との関係は残っています。看板を下ろすだけでは、事業も負担も消えません。

福岡県のワンヘルスは何を残したのか

ここまでを「巨額事業だった」「無駄だった」だけで終えると、全体像を見誤ります。

福岡県は全国に先駆けて条例をつくり、感染症、獣医療、環境を横断する仕組みを県政課題にしました。県内60市町村が推進宣言を行い、学校教育や地域活動にも理念が入りました。国会答弁や政府方針に福岡県の取り組みが登場し、国政を動かす一つの先行例になったことも事実です。

一方で、先駆的であることは、費用対効果や意思決定の説明を省いてよい理由にはなりません。

福岡県自身の資料から、次の問題が見えてきます。

  • ワンヘルス関連予算に含める明確な基準がなかった
  • 277件のうち237件は、本来別の目的を持つ事業だった
  • 理念の普及と、個別事業の必要性が一体で説明されてきた
  • 施設、団体支援、教育、イベントごとの成果指標が県民に見えにくかった
  • 推進する政治家、業界団体、県議会、執行部の役割分担が分かりにくかった
  • 県債や建設中の施設など、見直し後も長期負担が残る

つまり、最大の問題は、ワンヘルスが広がったことそのものではありません。

理念、政策、予算、組織、人脈が一つの言葉で包まれ、個別に検証しにくい状態になったことです。

見直しで問うべき五つのこと

行政改革審議会の答申を見るとき、継続か廃止かという結論だけでは足りません。

少なくとも、次の五つを事業ごとに確認する必要があります。

1.「ワンヘルス」の名前を外しても必要な事業か

老朽化した研究所の建て替えや感染症調査のように、名称に関係なく必要な事業はあります。その場合は、本来の目的と必要額を示せばよいはずです。

2.ワンヘルス固有の付加価値は何か

既存の環境教育、食育、森林整備、農業振興に「ワンヘルス」を付けることで、何が新しく生まれたのか。名称だけでなく、連携の成果を示す必要があります。

3.費用に見合う効果を測っていたか

来場者数や配布部数だけでなく、感染症対策、研究、教育、国際連携にどのような変化があったのか。事業開始前に目標が設定され、終了後に検証されたのかが問われます。

4.誰が提案し、誰が決め、誰が受益したのか

政治家、獣医師会、国際組織、県庁、受託企業の役割を分け、契約方法と意思決定の過程を公開する必要があります。

5.すでに決まった将来負担をどう扱うのか

センター整備、県債の元利払い、団体支援、人員派遣などは、見直し後も続く可能性があります。中止額だけでなく、継続する費用も一覧で示すべきです。

まとめ|理念ではなく、理念を使った県政が問われている

福岡県のワンヘルスとは何だったのでしょうか。

一つは、人、動物、環境の健康を一体で守る世界的な公衆衛生の理念です。

一つは、感染症から農林水産業、森林、教育、施設整備まで、277の取り組みを束ねた県の政策体系です。

そしてもう一つは、蔵内勇夫氏を接点として、福岡県議会、獣医師会、FAVA、国会議員、関係省庁をつなぎ、「福岡発」を国内外へ広げようとした地域・政治プロジェクトでした。

この三つを同じ言葉で語り続けた結果、理念への賛同が、そのまま個別事業への賛同であるかのように扱われました。

2026年の見直しで必要なのは、ワンヘルスを守るか捨てるかという二択ではありません。

「ワンヘルス」という名前を外しても、その事業は必要なのか。

必要なら、何のために、いくら使い、どのような成果を出すのか。

不要なら、どの段階で終わらせるのか。

それを一件ずつ説明することです。

理念が正しいという答えだけでは、約3億5000万円のモニュメントも、約6800万円の国際事務所支援も、約730万円の絵本も、約204億円のセンターも説明できません。

同時に、個別事業への批判だけでは、人獣共通感染症や薬剤耐性菌に備える必要性は消えません。

福岡県のワンヘルスが残した最大の問いは、良い理念を掲げた行政が、どこまで事業を広げてよいのかということです。

ワンヘルスを検証することは、理念を否定することではありません。

むしろ、理念を政治の看板から切り離し、本当に必要な施策として残せるかを問う作業です。

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