福岡市中央区天神のアクロス福岡13階に、「FAVAワンヘルス福岡オフィス」という国際組織の事務所がある。
アジア獣医師会連合、FAVAの日本事務所として、2023年8月1日に開設された施設だ。
ワンヘルスに関するアジア・オセアニア各国の情報を集め、各国の獣医師会や国際会議を結ぶ拠点と位置付けられている。
所長を務めるのは、福岡県議会議員で、日本獣医師会会長やFAVA会長を歴任した蔵内勇夫氏である。
このオフィスはFAVAだけで設置されたものではない。
開設に先立ち、福岡県とFAVAが日本事務所設立に関する覚書を締結し、開設後も福岡県が賃料や光熱費、活動経費などを支援してきた。
FAVAワンヘルス福岡オフィスは何をする組織なのか。
福岡県はどのような支援を行い、蔵内氏は所長としてどのような立場にあるのか。
公開資料から整理する。
FAVAとは何か
FAVAは「Federation of Asian Veterinary Associations」の略称で、日本語ではアジア獣医師会連合と呼ばれる。
1978年に設立された、アジア太平洋地域の獣医師会による国際組織である。23カ国・地域の獣医師会が参加し、加盟する獣医師は約40万人。本部はタイのバンコクに置かれている。
FAVAは、感染症対策、薬剤耐性菌対策、食の安全、動物福祉、獣医学教育など、国境を越えた獣医療上の課題に取り組んでいる。
その中でも福岡オフィスは、ワンヘルスに関する活動に重点を置く日本事務所である。
FAVAワンヘルス福岡オフィスの役割
FAVAワンヘルス福岡オフィスの主な活動として、アジア・オセアニア各国のワンヘルスに関する情報の収集と共有、FAVAや各国獣医師会が開く大会のプログラム企画への協力などを挙げている。国連ハビタット福岡本部との連携も検討するとしている。
福岡県のワンヘルス宣言事業者登録では、人獣共通感染症や薬剤耐性菌に関する周知、アジア・オセアニア地域の活動情報の共有などが活動内容として登録されている。
所在地は、福岡市中央区天神1丁目1番1号のアクロス福岡13階である。
単なる連絡事務所というより、ワンヘルスに関する国際会議や情報発信を福岡につなぐ拠点として設けられたことが分かる。
2022年11月、福岡県とFAVAが覚書を締結
オフィス開設に向けた大きな節目は、2022年11月9日だった。
同日、福岡市でFAVA会長の引継ぎ式が行われ、蔵内氏が会長に就任した。
また、福岡県とFAVAは、日本事務所となるFAVAワンヘルス福岡オフィスの設立に関する覚書を締結した。
数日後の11月11日から13日には、福岡市で第21回FAVA大会が開かれた。
大会では「アジアからのワンヘルスアプローチ」をテーマに議論が行われ、最終日には「アジアワンヘルス福岡宣言2022」が採択された。
服部誠太郎知事も、開設が決まった福岡オフィスと連携し、ワンヘルスの取り組みを進める考えを示している。
つまり、FAVA大会の福岡開催、蔵内氏のFAVA会長就任、日本事務所設立の覚書締結は、ほぼ同じ時期に進んだ。
2023年8月1日にアクロス福岡で開設
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、2023年8月1日にアクロス福岡内で開設された。
蔵内氏は公式サイトのあいさつで、福岡県をはじめ、多くの企業や個人の支援を受けてオフィスを開設したと説明している。
福岡県議会の記録では、開設の背景として、2022年2月議会でFAVA日本事務所を福岡県に常設する必要性が取り上げられたことが紹介されている。
これに対して服部知事は、県獣医師会、関係自治体、地元経済界と相談しながら誘致に取り組む考えを答弁していた。
開設までの流れを見ると、FAVA内部だけで決められた事務所ではなく、福岡県、県議会、県獣医師会、自治体、経済界を巻き込んだ誘致事業だったことがうかがえる。
福岡県は賃料や光熱費などを支援
福岡県は、FAVAワンヘルス福岡オフィスの活動に公費を支出している。
県がまとめた2023年度のワンヘルス推進行動計画の実施状況では、オフィスのワンヘルス推進活動を支援するため、事務所の賃料や光熱費などを負担したと記載されている。
2024年度当初予算には、FAVAワンヘルス福岡オフィスのワンヘルス推進活動への支援に要する経費として、2915万3000円が計上された。
さらに県の予算資料では、別年度にも同様の支援経費が計上されている。
この金額がすべて賃料と光熱費に使われるわけではない。※活動費や国際連携事業などを含む可能性があるため、支出の内訳は予算書、交付要綱、実績報告書などで確認する必要がある。
それでも、福岡県が単にオフィスの活動を後援しているだけでなく、運営に関わる経費を公費で支援していることは明らかだ。
福岡県の国際フォーラムでも事務局を担当
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、福岡県が進める国際事業にも関わっている。
福岡県ワンヘルス国際フォーラムでは、実行委員会の事務局や問い合わせ先を同オフィスが担っている。
2026年に開催された第6回福岡県ワンヘルス国際フォーラムでも、実行委員会事務局はFAVAワンヘルス福岡オフィスとされている。
県が主導する国際フォーラムの実務を担うことで、同オフィスはFAVAの日本事務所であると同時に、福岡県のワンヘルス国際発信を支える事務局としての役割も持つようになっている。
ここでは、FAVAの事業と福岡県の事業が重なる。
蔵内勇夫氏は所長として何を担うのか
FAVAワンヘルス福岡オフィスの所長は蔵内勇夫氏である。
蔵内氏は、オフィスの開設当時、FAVA会長、日本獣医師会会長、福岡県議会議員という複数の肩書を持っていた。
FAVA側では国際獣医師団体の代表、県政側では県議、国内では日本獣医師会会長という立場にあり、福岡県とFAVAを結ぶ中心人物の一人だった。
2023年9月には、世界獣医師会会長らとともに服部知事や県議会議長を訪問した。
県議会の記録では、その際にもFAVA会長、日本獣医師会会長、福岡県議という複数の肩書で紹介されている。
蔵内氏はFAVA会長を退いた後も所長
FAVA会長はその後交代している。
一方、FAVAワンヘルス福岡オフィスでは、蔵内氏が引き続き所長を務めている。
つまり、FAVA本体の会長職と福岡オフィス所長職は同一ではない。
蔵内氏はFAVA会長を退いた後も、福岡に置かれた日本事務所の責任者として残っていることになる。
運営主体や法人格は見えにくい
一方で、公開情報だけでは分かりにくい点もある。
公式サイトには所在地、電話番号、活動内容、所長名などが掲載されているが、オフィス自体の法人格、役員構成、職員数、年間収支、支援企業の一覧などは確認しにくい。
FAVA本体の一部門なのか、日本国内に別の運営法人や事務局組織があるのか。
福岡県からの支援金をどの団体が受け取り、誰が支出を決裁しているのか。
アクロス福岡の賃貸契約の名義は誰なのか。
企業や個人からの支援は寄付なのか、協賛金なのか。
これらは、オフィスの公共性と透明性を考えるうえで重要な情報だが、公開情報だけでは全体像を把握できない。
福岡県の支援はどこまで続くのか
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、アジア・オセアニアの獣医師団体をつなぎ、福岡県のワンヘルス政策を国際的に発信する拠点として設置された。
一方で、その運営には福岡県の公費が投入されている。
県が期待する効果は何か。
各年度の支出額に対して、何件の国際連携、会議、人材育成、情報発信が行われたのか。
支援には期限や目標が設定されているのか。
こうした成果指標を確認しなければ、公費支援の妥当性を判断することは難しい。
国際組織の事務所を福岡に置くこと自体には、海外機関との関係づくりや県の知名度向上という効果が期待できる。
しかし、「国際拠点」という看板だけでなく、支援額、支出内容、成果を継続して公開することが必要だ。
福岡県とFAVAをつないだ蔵内氏
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、2022年11月の覚書締結を経て、2023年8月に開設された。
福岡県は、賃料、光熱費、活動経費などを支援し、同オフィスは県のワンヘルス国際フォーラムで事務局を担っている。
所長を務める蔵内氏は、日本獣医師会、FAVA、福岡県議会という複数の立場を通じ、オフィスの誘致と開設に関わった中心人物の一人である。
ただし、現在のワンヘルス政策やオフィスの運営を、蔵内氏一人の活動とみなすことはできない。
服部知事をはじめとする福岡県、県議会、FAVA加盟団体、県獣医師会、企業など、複数の主体が関与している。
重要なのは、蔵内氏の肩書だけを見るのではなく、福岡県とFAVAの間で、どのような合意が結ばれ、どれだけの公費が支出され、誰が意思決定を担っているのかを確認することだ。
FAVAワンヘルス福岡オフィスは、福岡県のワンヘルス政策が国際展開へ進んだ象徴的な施設である。
同時に、行政と国際団体、獣医師会、政治家の関係を検証するうえで、資金と運営の透明性が問われる施設でもある。
蔵内勇夫氏が関係するワンヘルス関連の団体は、他にもある。
詳しくはこちらの記事で整理している。
蔵内勇夫氏が何者なのかについては、こちらの記事で詳しく整理している。

