福岡県議会の海外視察問題で、説明を求められているのは県議や議会事務局だけなのでしょうか。
海外視察では、旅行会社が見積書を出し、県議会と契約を結び、航空券、宿泊施設、通訳、添乗員、現地車両などを手配していました。契約額が後から何倍にも増えた以上、発注した県側だけでなく、見積もりを作成して受注した旅行会社が、どの段階で最終的な費用を把握していたのかも確認する必要があります。
結論から言えば、旅行会社については県監査の中で積算内容の確認が行われています。一方、住民訴訟や刑事告発の直接の対象にはなっておらず、第三者委員会についても、旅行会社そのものを名指しして調査する方針は公表されていません。
つまり、「旅行会社は全く調べられていない」という表現は正確ではありません。しかし、「各社の判断や責任まで透明に検証された」とも言えないのが現状です。
契約額が大幅に増えた仕組みや、随意契約が繰り返された経緯については、福岡県議会の海外視察問題とは何かで詳しく整理しています。
海外視察を受注した旅行会社として確認できた3社
報道によると、2024年1月から2025年11月までの海外視察16件は全て随意契約で、契約先は県内に事務所を置く旅行会社4社でした。このうち1社が16件中9件、合計約5000万円分を受注したとされています。また、16件全てで当初契約後に金額が増え、最大10.3倍になった契約もありました。2024年1月のハワイ視察は99万円から769万円、同年4月の南アフリカ視察は95万円から916万円、2025年のハワイ視察は97万円から651万円へ変更されています。
主要報道では旅行会社名が明記されていませんでしたが、本稿が開示された契約関係書類を確認した範囲では、次の3社を確認できました。
| 旅行会社 | 確認できた書類 |
|---|---|
| 西鉄旅行株式会社 | 請求書 |
| 株式会社ワールドコンパス | 業務委託契約書、変更契約書 |
| 株式会社JTB | 委託業務契約書、変更関係書類 |
ただし、報道された4社のうち残る1社の社名は確認できていません。また、3社がそれぞれどの視察を何件受注したのかという全件の対応関係も、現時点では確定できません。
そのため、「16件中9件を受注した会社はこの会社だ」「99万円から769万円に増えた契約はこの会社だ」と推測で結びつけるべきではありません。全4社の社名、受注した視察、当初契約額、変更後の契約額を県議会が一覧で公表する必要があります。
西鉄旅行、ワールドコンパス、JTBはどのような会社か
西鉄旅行株式会社
本社は福岡市中央区薬院にあり、2026年4月1日時点で資本金1億円、従業員291人、営業所17カ所を持つ旅行会社です。団体旅行、法人の国内・海外出張、MICEなどを扱っています。
福岡を本拠とし、団体・法人旅行を手がける会社であることから、行政や議会の海外活動に必要な複雑な手配にも対応できる事業者と考えられます。
株式会社ワールドコンパス
東京、大阪、名古屋、福岡にオフィスがあり、2026年8月時点の従業員数は126人です。グローバル旅行事業やエアライン事業などを展開し、視察旅行、MICE、団体旅行などを取り扱うとしています。
個人向け旅行だけではなく、法人や団体の海外手配を得意分野とする会社です。
株式会社JTB
本社は東京都港区にあり、旅行業のほか、国際・国内会議の企画や通訳・翻訳など幅広い業務を行う全国規模の旅行会社です。グループ全体の従業員数は、2025年3月末時点で1万9376人とされています。
3社の規模や得意分野は異なりますが、いずれも団体・法人旅行を扱う専門事業者です。だからこそ、当初契約と最終的な手配内容の差を、いつ、どこまで予測できていたのかは重要な確認事項になります。
旅行会社は単なる手配窓口だったのか
県議会事務局は、訪問先や行程は議会側が主導して決めており、旅行会社が介入できる余地は少なかったと説明しています。また、必要最小限の内容で早期に契約し、行程全体が決まった段階で変更契約を結ぶ方式だったとしています。議会事務局は旅行会社との癒着を否定しています。
この説明を前提にすれば、契約方法を決め、予定価格を設定し、変更契約と公金支出を承認した第一義的な責任は、県議会と議会事務局にあります。旅行会社だけに問題の責任を転嫁するのは適切ではありません。
一方で、複数の視察で2社の旅行会社が同じ高級ホテルを提案していたとも報じられています。議会側がどの程度まで宿泊条件を指定したのか、旅行会社がどのような代替案を示したのかは、公開された情報だけでは判然としません。
「議会側の指示だったのか」「旅行会社側の提案だったのか」を分けて検証するには、県議会が各社へ渡した仕様書や依頼内容、各社が提出した当初見積書と変更見積書、ホテルの比較案を確認する必要があります。
県監査は旅行会社にも確認していた
2026年1月に提出された住民監査請求では、随意契約を結んだ具体的な業者名、業者と県議との関係、委託費増額の予見可能性、責任の所在などを調べるよう求めていました。
3月24日に公表された福岡県監査委員の監査結果によると、請求期間の制限などから監査対象となった委託契約は6件でした。監査委員は、これらの変更契約について受託業者へ積算内容を確認しています。その上で、追加された業務があり、積算内容や変更金額に不自然な点はないとして、金額は妥当と判断しました。業務委託契約に県議が関与した形跡や、収賄を疑わせる事務処理も認められなかったとしています。
したがって、旅行会社側への確認が一切なかったわけではありません。
ただし、同じ監査結果は、変更契約時の見積もりについて、具体的な数量や単価を示す積算内容が残されていなかったとも指摘しています。さらに、予算上の積算があったにもかかわらず、それを大きく下回る予定価格で契約し、後から増額していた不適切な事例が3件あったと認定しました。
監査結果には、会社ごとの契約一覧、各社への確認内容、ホテルの提案過程、手配手数料や個別単価などは示されていません。監査で一定の確認は行われたものの、受注した旅行会社ごとの関与を県民が検証できる状態にはなっていないのです。
第三者委員会で旅行会社は調査対象になるのか
服部誠太郎知事は2026年7月30日、県が設置する第三者委員会の対象に、県議会の海外活動経費を加える方針を示しました。ただし、公表されている調査対象は「県議会の海外活動の経費」であり、旅行会社3社を直接の調査対象として名指ししたものではありません。
契約額や増額の妥当性を調べるなら、契約書、見積書、変更契約書、請求書などの確認は避けて通れません。しかし、契約書類を調べることと、旅行会社の担当者に直接聞き取りを行い、各社の判断や責任を評価することは別です。
8月21日の知事会見では、福岡県弁護士会が委員候補者を選定中で、設置要綱や契約、調査日程もまだ決まっていないと説明されました。2026年9月8日時点で県の公表を確認した範囲では、旅行会社への聞き取りを行うのか、個別企業の関与まで評価するのかは明らかになっていません。
県側と県議会側に二つある第三者委員会の違いや調査範囲は、福岡県の第三者委員会はいつ終わる?で整理しています。
住民訴訟で旅行会社は訴えられているのか
旅行会社は、現在確認できる住民訴訟の被告や返還請求の相手にはなっていません。
2026年3月30日に福岡地裁へ提起された住民訴訟の被告は、福岡県知事の服部誠太郎氏です。訴えでは、知事に対し、蔵内勇夫氏へ12万8640円の不当利得返還を請求することと、服部氏本人へ1097万3112円の損害賠償を請求することを求めています。
これは地方自治法上の住民訴訟の仕組みに基づき、公金支出を行った側の責任を問う構成です。少なくとも公表された訴えの内容に、旅行会社への返還請求や損害賠償請求は含まれていません。
また、福岡県警が2026年5月に受理した背任容疑の刑事告発で、被告発人とされているのは蔵内勇夫氏と松尾統章氏です。報道で確認できる範囲では、旅行会社は被告発人に含まれていません。なお、告発状の受理は犯罪の成立や有罪を意味するものではありません。
蔵内氏の議員辞職と、その後も残る検証課題については、蔵内勇夫はなぜ議員辞職したのかで解説しています。
受注した旅行会社に責任はないのか
現時点で、西鉄旅行、ワールドコンパス、JTBのいずれかが違法行為に関与したと認定する公的資料や司法判断は確認できません。会社名が契約書にあることだけで、不正や癒着を断定することはできません。
しかし、違法性が確認されていないことと、検証が尽くされたことは同じではありません。
旅行会社は、県議会から一方的に代金を受け取っただけではなく、見積書を提出し、契約を結び、変更後の金額を示し、実際の手配を行った契約当事者です。公費を原資とする契約を担った事業者として、少なくとも次の点は確認されるべきです。
- 当初契約の時点で、最終的な参加人数、行程、必要な添乗員や車両をどこまで把握していたのか
- 大幅な増額を、契約前に予測できなかったのか
- 当初見積もりから除外されていた費目は、誰の判断で外されたのか
- 高級ホテルは県議会側の指定だったのか、旅行会社側の提案だったのか
- より安い航空券、ホテル、車両などの代替案を提示したのか
- 変更見積もりの数量、単価、手配手数料はどのように算出されたのか
- 同じ会社が繰り返し見積もり依頼や受注を得た経緯に、不自然な点はなかったのか
これらは、旅行会社を犯人扱いするための質問ではありません。発注側と受注側の双方を調べなければ、契約額が何倍にも増えた理由を正確に説明できないからです。
将来の改善だけでは、過去の契約は解明されない
県議会は問題発覚後、当初から実態に見合う金額で契約すること、見積もりを依頼する業者を2社から4社程度へ増やすこと、選定委員会で業者を決めることなどの改善策を示しました。
制度を改めることは必要です。しかし、新しいルールを作っただけでは、過去の契約で誰が何を知り、なぜ低い金額で契約し、誰の提案で高額な宿泊先を選び、どのように増額を決めたのかは分かりません。
第三者委員会には、少なくとも次の内容を報告書で示すことが求められます。
- 受注した旅行会社4社の社名と、視察ごとの受注実績
- 当初見積もり、変更見積もり、最終支払額の比較
- 増額費目ごとの数量、単価、手配手数料
- ホテルや航空券を選んだ主体と、旅行会社が示した代替案
- 県議会、議会事務局、旅行会社それぞれへの聞き取り結果
- 特定業者への発注が繰り返された理由と、関係者との利害関係の有無
福岡県議会の海外視察問題では、これまで県議、議会事務局、知事の責任に注目が集まってきました。しかし、契約には必ず相手方がいます。
旅行会社の違法行為を示す証拠は、現時点では確認されていません。その一方で、受注した全社の名前さえ公式の一覧として明らかにされず、各社がどのような見積もりや提案を行ったのかも見えないままです。
必要なのは、疑いだけで会社を断罪することでも、監査を終えたから問題はないとして幕を引くことでもありません。公費契約の両側を、同じ解像度で検証することです。旅行会社側の経緯まで調べて初めて、海外視察契約の全体像が明らかになります。
