久留米市では近年、大雨のたびに浸水被害が問題になってきた。
平成30年7月豪雨、令和元年7月大雨、令和2年7月豪雨、そして令和5年7月の大雨。筑後川を抱える久留米にとって、水害は一時的な災害ではなく、街の構造そのものに関わる問題である。
そうした中で、久留米市長は近年の大雨について、治水対策や施設整備の効果が出ているという趣旨の発言をしている。
たしかに、2024年や2025年の大雨では、過去のような大規模な住宅浸水は確認されていない。しかし、それは本当に浸水対策の成果なのか。それとも、過去の豪雨ほどの雨量ではなかっただけなのか。
この記事では、久留米市の浸水対策がどこまで進んだのか、2025年の大雨、2026年までに完了した主な事業、そして今後の課題を整理する。
市長発言はそのまま受け取ってよいのか
久留米市長が浸水対策の効果を強調する背景には、一定の理由がある。
近年、久留米市では金丸川・池町川流域、下弓削川・江川流域、筒川流域、三潴地区などで、雨水幹線、ゲートポンプ、逆流防止ゲート、護岸嵩上げなどの整備が進められてきた。
実際に、金丸川・池町川流域では、金丸5号雨水幹線築造工事が令和6年8月に完了している。雨水幹線水路の整備延長は385メートル、放流管は28メートルで、大雨時に水路などから雨水があふれるのを軽減する目的とされている。
また、西田雨水幹線ゲートポンプ設置工事も令和6年6月に完了している。これは、金丸川への吐口部に口径500ミリメートルのゲートポンプ2基を整備し、大雨時に自然排水が困難な場合でも雨水幹線の排水能力を高めるための施設である。
つまり、市長の発言は、まったく根拠のないものではない。
ただし、ここで一度立ち止まる必要がある。被害が少なかったことと、浸水対策の効果が証明されたことは、必ずしも同じではないからである。
2024年の雨量は過去豪雨級だったのか
2024年7月の大雨では、久留米市内で大きな家屋浸水や人的被害が出なかったことが、浸水対策の効果として語られた。
しかし、検証するうえで重要なのは、その時の雨量である。
過去に久留米市で深刻な浸水被害が出た豪雨と比べた場合、2024年の雨が同じ規模だったのかどうか。もし雨量そのものが過去豪雨より小さかったのであれば、「被害が少なかった=対策が完全に機能した」とまでは言い切れない。
もちろん、雨量が小さかったから意味がないという話ではない。大雨に対して被害を抑えられたなら、それは一つの成果である。
ただ、市民の生活に関わる防災情報として考えるなら、行政の評価をそのまま受け取るだけでは不十分である。
「本当に強い雨が降ったときにも機能するのか」
そこまで見なければ、久留米市の浸水対策を正確に評価することはできない。
2025年8月の大雨ではどうだったのか
そこで注目したいのが、2025年8月10日から11日にかけての大雨である。
気象庁の久留米観測データでは、2025年8月10日の久留米は日降水量77.5ミリ、最大1時間降水量41.0ミリ。翌8月11日は日降水量79.5ミリ、最大1時間降水量18.5ミリを記録している。
さらに、国土交通省の流域治水資料では、金丸5号雨水幹線や西田雨水幹線ゲートポンプが令和7年8月の大雨時に排水を行ったことも示されている。資料では、金丸5号雨水幹線について令和7年8月に3,050立方メートル、同年10月に6,700立方メートルの排水、西田雨水幹線ゲートポンプについて令和7年8月に14,000立方メートル、同年10月に5,900立方メートルの排水が記されている。
これは、単に施設が完成しただけではなく、実際の大雨時に動いた形跡がある。
では、2025年8月の大雨で久留米市内に住宅浸水はあったのか。
福岡県が公表した令和7年8月9日からの大雨被害状況を見る限り、県内では床上浸水・床下浸水が発生しているが、住家被害の市町村一覧に久留米市は確認できない。
一方で、道路冠水や農業用ハウスの浸水などは報告されており、「浸水がまったくなかった」とは言えない。
つまり、2025年8月の大雨は、久留米市の浸水対策が一定程度機能した可能性を示す材料にはなる。ただし、それは「久留米市の水害リスクが消えた」という意味ではない。
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2026年までに久留米市は何を進めたのか
2026年時点で見ると、久留米市の浸水対策はかなり具体的な段階に入っている。
主な対策は次のようなものだ。
| 分野 | 主な内容 |
|---|---|
| 排水能力の強化 | 雨水幹線、排水ポンプ、ゲートポンプ |
| 逆流防止 | フラップゲート、逆流防止ゲート |
| 河川・水路整備 | 護岸嵩上げ、排水路改良、底版整備 |
| 貯留対策 | 調節池、雨水貯留施設 |
| ソフト対策 | ハザードマップ、防災情報、避難行動の周知 |
特に金丸川・池町川総合内水対策計画では、国土交通省、福岡県、久留米市が実施主体となり、排水機場のポンプ増設、調節池、放水路、雨水幹線、護岸嵩上げ、逆流防止ゲート、ゲートポンプ、ソフト対策などが進められている。
ここで大事なのは、これが市長個人の思いつきで始まった対策ではないという点である。
久留米市の浸水対策は、平成30年や令和元年の豪雨被害を受けて、国・県・市が連携して進めてきた流れの中にある。
そのため、「市長がやった」と単純に言い切るのは政治宣伝に近くなる。正確には、原口市政下で、すでに計画されていた総合内水対策が実行段階に入り、複数の施設整備が完了してきた、という見方が妥当である。
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まとめ|評価できるが、成功宣言にはまだ早い
久留米市の浸水対策は、確かに前へ進んでいる。
金丸5号雨水幹線、西田雨水幹線ゲートポンプ、逆流防止施設、護岸嵩上げなど、具体的な整備が進んでいる。2025年8月の大雨時にも、少なくとも一部施設が実際に排水機能を果たしたことが資料上確認できる。
その意味で、市長が「治水対策の効果」を語ることには、一定の根拠がある。
しかし、成功宣言にはまだ早い。
2024年の大雨は、過去に大きな浸水被害をもたらした豪雨と同じ規模だったとは言い切れない。2025年8月も住宅浸水が確認されなかったことは評価できるが、道路冠水や農業施設の浸水はあった。
さらに、近年の豪雨は局地化・激甚化している。どこで、どれだけの雨が短時間に降るかは読みづらい。
だから久留米市に必要なのは、「浸水しなくなった」と安心することではない。
浸水リスクを前提に、どの地域が危険なのか、どの施設が機能したのか、どこにまだ弱点が残っているのかを見続けることである。
久留米は水とともに発展してきた街である。同時に、水害と向き合い続けなければならない街でもある。
浸水対策は進んでいる。
だが、それは水害との戦いが終わったという意味ではない。
むしろ久留米市は、ようやく「水害を前提にしたまちづくり」の入口に立ったのである。
久留米市の浸水リスクは、防災だけの話ではない。どの町に住むか、どの駅周辺が発展してきたか、どこが暮らしやすいとされるのかにも関わってくる。
JR久留米駅と西鉄久留米駅の再開発については、こちらの記事でも整理している。
また、町ごとの浸水リスクを知りたい方は、久留米市内の浸水履歴とハザードマップをもとにしたこちらの記事も参考にしてほしい。

