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ワンヘルス条例がある県は福岡と徳島だけ|予算を比較すると見えた大きな違い

福岡県と徳島県ワンヘルス条例と予算比較 まちと政治
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ワンヘルスを名称と目的に掲げる都道府県条例は、2026年8月時点で福岡県と徳島県の2県にしかありません。

しかし、同じ「ワンヘルス条例」を持つ県でも、予算の組み方は大きく異なります。

福岡県では、ワンヘルス関連として整理された5年間の予算が約58億円に上り、みやま市では総事業費約200億円のワンヘルスセンター整備も進んでいます。一方、徳島県で事業名に「ワンヘルス」を掲げた推進事業は、2023年度から2026年度までの4年間で計2469万6000円です。

ただし、この二つの数字をそのまま割って「福岡は徳島の何倍」と結論づけることはできません。福岡県の約58億円には既存の鳥獣被害対策など幅広い事業が含まれる一方、徳島県の数字は条例に基づく普及・連携事業を中心に集計したものだからです。

むしろ比較から見えてくるのは、ワンヘルスという理念そのものよりも、自治体が「どこまでをワンヘルス予算に含めるか」という政策判断の違いです。

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ワンヘルス条例を制定している都道府県は2県

福岡県は2020年12月、全国で初めて「福岡県ワンヘルス推進基本条例」を制定しました。2022年10月には、県民や事業者による実践を促すための条例も加わり、六つの基本方針、行動計画、推進拠点などを含む広い政策体系をつくっています。

徳島県は2023年3月、「徳島県ワンヘルス推進条例」を制定しました。県議会の自由民主党と新風とくしまの両会派が共同で提案した議員提出条例で、人獣共通感染症への対応、県民への普及啓発、関係機関の連携などを定めています。

両県の違いを整理すると、次のようになります。

比較項目福岡県徳島県
最初の条例制定2020年12月2023年3月
ワンヘルスを掲げる条例2本1本
政策の広がり人・動物・環境に関する六つの分野、県民実践、拠点整備など人獣共通感染症対策、普及啓発、関係機関の連携など
推進拠点みやま市に大規模施設を整備県庁内に連携組織を設置
確認できる予算の特徴既存施策、大型施設、森林整備などを含む幅広い関連予算普及、教育、調査研究、連携を中心とする小規模な事業費

条例があるという点は共通していますが、条例をどのような事業に展開するかは同じではありません。

2026年度の普及事業だけを見ると福岡と徳島は近い

予算比較でまず注目したいのは、名称と内容が比較的近い普及・参加促進事業です。

2026年度当初予算では、福岡県の「みんなでやろうよ!ワンヘルス参画推進費」が461万6000円、徳島県の「次世代ワンヘルス推進加速事業」が506万6000円となっています。

2026年度の事業予算額
福岡県みんなでやろうよ!ワンヘルス参画推進費461万6000円
徳島県次世代ワンヘルス推進加速事業506万6000円

事業の細目は異なるため完全な同条件比較ではありませんが、県民参加、教育、普及啓発を中心とする予算だけなら、両県は年500万円前後で大きく離れていません。

福岡県の関連予算が大きく見える主因は、普及事業そのものではなく、施設整備、森林整備、鳥獣対策、国際的な取り組みなどをワンヘルス政策の中に組み込んできたことにあります。

福岡県の関連予算を大きくした大型事業

報道によると、福岡県がワンヘルス関連として計上した予算は5年間で約58億円です。

ただし、服部誠太郎知事は2026年2月の記者会見で、ワンヘルス事業の定義や分類が曖昧だったことを認めています。例えば、従来から行われてきた有害鳥獣の捕獲や侵入防止柵の整備も、後からワンヘルス関連事業に分類されていました。

つまり約58億円の全額が、新たに始めた啓発事業やイベントへ使われたわけではありません。その一方で、福岡県独自の大型事業が進められていることも事実です。

ワンヘルスセンターは総事業費約200億円

福岡県は、みやま市の旧保健医療経営大学跡地にワンヘルスセンターを整備しています。県保健環境研究所、動物保健衛生所、人材育成や交流の機能などを集約する計画で、総事業費は約200億円とされています。

施設の内容と建設地の経緯は、関連記事「福岡県ワンヘルスセンターとは|総事業費約200億円、なぜみやま市に建設されるのか」で詳しく整理しています。

2026年度には「ワンヘルスの森」に約1億5280万円

福岡県の2026年度当初予算には、「ワンヘルスの森づくり推進費」として1億5280万4000円が計上されています。

このほか、筑後広域公園ではモニュメント関連事業に約3億5000万円が投じられました。現地の状況や整備の経緯は「筑後広域公園の3億5000万円ワンヘルス・モニュメントを見に行った|蔵内勇夫氏との関係は」で紹介しています。

※なお、5年間約58億円、センター総事業費約200億円、モニュメント関連事業約3億5000万円は、対象期間や予算区分が異なり、一部が重なる可能性があります。合計して福岡県の総額とすることはできません。

徳島県のワンヘルス推進事業は4年間で約2470万円

徳島県で、事業名に「ワンヘルス」を掲げた推進事業の予算を年度別に見ると、次のようになります。

年度事業名予算額
2023年度ワンヘルス推進事業791万円(当初191万円、6月補正600万円)
2024年度ワンヘルス推進事業600万円
2025年度次世代ワンヘルス推進加速事業572万円
2026年度次世代ワンヘルス推進加速事業506万6000円
4年間合計2469万6000円

主な内容は、県民向け講座、ワークショップ、啓発動画、学校教育、専門家の派遣、関係機関の連携、調査研究や情報共有です。

この合計には、保健衛生、動物愛護、環境保全など各部局が通常予算で実施する関連施策の全ては含まれていません。それでも、徳島県が条例制定後に新たな大規模施設や数億円規模のモニュメントを政策の柱にしていないことは確認できます。

徳島県はなぜワンヘルス条例を制定したのか

徳島県の取り組みは、条例制定から突然始まったものではありません。

県は2004年度から、医師、獣医師、行政などで構成する「徳島県動物由来感染症対策検討会」を設置していました。2016年には徳島県医師会と徳島県獣医師会が協定を結び、ワンヘルスの考え方に基づく連携を進めています。

さらに2022年、検討会に環境分野の専門家を加え、人、動物、環境を一体的に扱う体制へ広げました。その延長線上で、2023年に県議会の二会派が条例案を共同提案したという流れです。

公表資料を見る限り、徳島県では特定の一人がワンヘルス政策全体を主導したというより、感染症対策の既存組織、医師会、獣医師会、環境分野、県議会が段階的に制度化した構図が目立ちます。

同じ「ワンヘルスセンター」でも福岡と徳島では意味が違う

徳島県も2024年4月に「徳島県ワンヘルス推進センター」を設置しています。しかし、福岡県の計画とは性格が異なります。

徳島県のセンターは県庁内に置かれた連携・推進組織です。専門家や関係部局を結び、普及啓発、検査、調査研究、研修、情報発信などを進めます。大規模な新築施設を指すものではありません。

これに対し、福岡県のワンヘルスセンターは研究所や動物保健衛生所などを集約する建設事業です。

同じ名称でも、一方は既存組織を束ねる仕組み、もう一方は総事業費約200億円の施設整備です。この違いは、条例を持つことと大型公共事業を行うことが必ずしも一体ではないことを示しています。

蔵内勇夫氏の「国策」発言には根拠がある

福岡県議で日本獣医師会会長の蔵内勇夫氏は2026年8月10日、「福岡県から発信したこのワンヘルスはすでにもう国策となっている」と発言しました。

ワンヘルスが国の政策に位置付けられているという部分には根拠があります。国は2016年の薬剤耐性対策アクションプランや2017年の「骨太の方針」でワンヘルスを取り上げ、2026年7月に閣議決定した高市早苗内閣の「経済財政運営と改革の基本方針2026」でも、ワンヘルス・アプローチによる人獣共通感染症対策を推進すると明記しました。

高市首相と蔵内氏の接点、発言の背景、国の文書への記載は「高市早苗と蔵内勇夫の接点|『頑張れという目で見ていただいた』発言の背景を調べた」で確認できます。

一方で、「ワンヘルスが国策である」ことと、「福岡県の個別事業や予算額が妥当である」ことは別の論点です。

国が感染症対策としてワンヘルスを推進していても、各自治体に総事業費約200億円の施設や数億円規模のモニュメントを求めているわけではありません。徳島県が年500万円前後の推進事業と県庁内の連携組織で条例を運用していることが、その違いを具体的に示しています。

また、ワンヘルスの概念自体は福岡県で生まれたものではありません。福岡県は2016年の「福岡宣言」などを通じて国内外への発信に力を入れてきましたが、国際的な考え方と福岡県独自の事業展開は分けて評価する必要があります。

福岡県は2026年度、未着手事業の凍結やイベントの中止を含むゼロベースの見直しに入りました。何が凍結され、何が継続されたのかは「福岡県のワンヘルス事業は何が凍結され、何が中止されたのか|服部知事の『ゼロベース見直し』を整理」で整理しています。

問われるのは理念ではなく予算化の範囲

福岡県と徳島県は、どちらも条例によってワンヘルスを推進しています。しかし予算の比較からは、二つの異なる実施モデルが見えます。

徳島県は、人獣共通感染症対策として積み重ねてきた医療、獣医療、環境分野の連携を条例化し、普及、教育、情報共有を中心に年数百万円規模で運用しています。

福岡県は、同じ理念を県政の幅広い分野へ拡張し、既存施策だけでなく、大型施設、森林整備、モニュメント、国際交流なども関連事業に組み込んできました。その結果、何がワンヘルス固有の支出なのかが見えにくくなりました。

条例がある二つの県を比べることで、ワンヘルスの理念への賛否と、公費の使い方に対する検証は切り分けて考えられます。福岡県で今問われているのは、理念を掲げることではなく、その名の下で組まれた予算を一件ずつ説明できるかどうかです。

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