福岡県議会では、議長選をめぐる金銭授受疑惑や、高額な海外視察問題が相次いで報じられています。
その中心にいるのが、福岡県議会議長を務める蔵内勇夫県議です。
これほど報道が続いても、蔵内氏が容易に辞職へ追い込まれない背景には、県議会や自民党県議団での影響力に加え、地元・筑後市に築いてきた強固な政治基盤があるとみられます。
しかし、その政治基盤は、本当に筑後市民からの圧倒的な支持によって支えられてきたのでしょうか。
蔵内氏の地元である筑後市選挙区では、2023年まで20年間、県議選の選挙戦が行われていませんでした。蔵内氏は選挙で勝ち続けたのではなく、2007年から2019年まで4期連続で無投票当選していたのです。
その実際の支持の厚さが初めて数字として表れたのが、20年ぶりの選挙戦となった2023年の福岡県議選でした。
蔵内氏は元副市長の新人候補に、わずか1,652票差まで迫られています。
この結果を見る限り、20年間の無投票が示していたのは、筑後市民からの圧倒的な支持ではありません。むしろ、対抗馬が現れにくく、有権者が別の候補者を選ぶ機会を持てない政治構造が続いていた可能性があります。
筑後市選挙区では20年間選挙戦がなかった
福岡県議選の筑後市選挙区は、定数1の一人区です。
蔵内勇夫氏は1987年に初当選し、長年にわたって筑後市選挙区の県議を務めてきました。現在は10期目です。
蔵内氏は、2023年の県議選まで、4期連続で無投票当選しています。
1987年:初当選
2007年、2011年、2015年、2019年:4期連続無投票
2023年:20年ぶりの選挙戦
筑後市選挙区で実際に選挙戦が行われたのは2003年以来であり、2023年は20年ぶりの選挙となりました。
無投票当選になると、有権者による投票は行われません。
蔵内氏を支持する人だけでなく、支持しない人も、別の候補者を望む人も、その意思を票として示すことができません。
無投票当選は得票率100%を意味するものではありません。
むしろ、支持と不支持を測る機会そのものがなかった状態です。
こうした「選べない選挙」は、筑後市の県議選だけの問題ではありません。
久留米市でも2026年の市長選が無投票となり、原口剣生県議の弟である現職の原口新五市長が無投票再選しています。
有権者が市政の方向性を投票で選ぶ機会は失われました。
関連記事:原口剣生とは何者か
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2023年に元副市長の北島一雄が出馬
20年間続いた無投票を終わらせたのが、筑後市の元副市長である北島一雄氏でした。
北島氏は2023年1月に副市長を辞職し、無所属新人として福岡県議選への立候補を表明しました。
一方の蔵内氏は、当選9回を重ねていた自民党の現職です。自民党県議団会長や自民党福岡県連会長を歴任し、福岡県政に強い影響力を持っていました。
さらに2023年の選挙では自民党公認に加え、農政連の推薦も受けています。選挙終盤には、自民党の森山裕選挙対策委員長も筑後市に入り、蔵内氏を支援しました。
当選9回の自民党現職と、無所属新人の元副市長。
組織力だけを見れば、蔵内氏の圧勝に終わっても不思議ではない選挙でした。
蔵内勇夫と北島一雄の得票差は1,652票
2023年4月9日に投開票された筑後市選挙区の結果は、次の通りです。
蔵内勇夫氏は9,889票、北島一雄氏は8,237票でした。
得票差はわずか1,652票です。
両候補の得票数から計算すると、得票率は蔵内氏が約54.6%、北島氏が約45.4%となります。
当選10回を目指す自民党現職に対し、初めて県議選に立候補した無所属新人が、投票者の45%を超える支持を集めたのです。
これは蔵内氏の圧勝ではありません。
筑後市をほぼ二分する接戦でした。
20年間選挙戦がなかったからといって、筑後市内に蔵内氏への異論が存在しなかったわけではありません。
実際に対抗馬が現れると、投票した人の約45.4%の8,237人が蔵内氏ではない候補者を選びました。
20年間表に出なかった異論が、選挙によって初めて数字になって現れたともいえます。
無投票によって圧倒的支持ではないことが見えなかった
蔵内氏の政治基盤が強かったことは間違いありません。
しかし、2023年の選挙結果を見る限り、筑後市民から圧倒的な支持を受けていたとはいえません。
20年間選挙が行われなかったことで、蔵内氏を支持しない有権者がどれほどいるのかも見えなくなっていました。
無投票当選が続けば、候補者同士の政策論争は起きません。有権者が現職の実績を評価し、別の候補者と比較する機会も失われます。
現職の政治基盤だけが可視化され、現職に対する異論は数字として残りません。
蔵内氏が圧倒的に支持されていたから無投票だったのではなく、無投票だったため、圧倒的な支持ではないことが見えなかったのです。
北島一雄が語った「意に沿わないことが言えない」
2023年3月に開かれた公開討論会で、北島氏は、「一部の政治家に圧倒的な権限と権力が集中すれば、その政治家の意向に反することを言えなくなる」との趣旨を訴えました。
これは蔵内氏と選挙を争う対立候補の主張です。
この発言だけを根拠に、筑後市で政治的な圧力が加えられていたと断定することはできません。
しかし、筑後市選挙区で20年間選挙戦が成立しなかった事実と重ねれば、単なる選挙用の批判として聞き流すこともできません。
北島氏自身も、20年間の無投票を「異常と言えば異常」と表現し、自分たちの声を反映させる場を求める声があったと説明しています。
そして実際に選挙が行われると、北島氏は45.4%もの票を獲得しました。
異論がなかったのではありません。
異論を選挙へ運ぶ候補者が、それまで現れなかったのです。
なぜ対抗馬が現れにくかったのか
蔵内氏は長年、福岡県議会や自民党福岡県連で要職を務めてきました。
地元では自民党、農業関係団体、後援会などの支援を受け、県政や国政へ要望を届けられる政治家として強い存在感を持っています。
県議会議員選挙への出馬には、資金や人員だけでなく、地域の企業、団体、市議、支援者との関係も必要になります。
特に定数1の選挙区では、有力な現職と正面から争うことになります。
落選すれば何も得られない一方、地域社会では「誰を支持したか」という人間関係だけが残る可能性もあります。
蔵内氏側から具体的な圧力があったと確認されたわけではありません。
それでも、長期現職の影響力が大きくなるほど、対抗馬にとって立候補のハードルが高くなる構造は考えられます。
蔵内氏の経歴や福岡県政で築いてきた影響力については、別記事で詳しく整理しています。
関連記事:蔵内勇夫とは何者か
現在の問題が次の選挙に与える影響
2023年の得票差は1,652票でした。
単純計算では、前回蔵内氏へ投票した人のうち827人が北島氏側へ移れば、両者の順位は逆転します。
もちろん、選挙結果は候補者、投票率、支援団体の動向などによって変わるため、次の選挙で蔵内氏が敗れると断定することはできません。
しかし、2023年時点ですでにこれほどの接戦だったことを考えれば、現在の議長ポストを巡る金銭授受疑惑や海外視察問題が選挙まで残った場合、蔵内氏本人の再選が厳しくなる可能性はあります。
一方で、蔵内氏本人が次の県議選へ出馬するとは限りません。
2023年の公開討論会では、県営公園を完成させた後、若い世代へバトンタッチしたいとの考えも語っていました。
そこで考えられるのが、後継候補への地盤継承です。
息子・蔵内謙へ地盤を引き継ぐ可能性
蔵内勇夫氏の息子である蔵内謙氏は、2016年の衆議院福岡6区補欠選挙に立候補した経歴があります。
この補欠選挙では、鳩山邦夫氏の死去に伴って息子の鳩山二郎氏が立候補し、蔵内謙氏との保守分裂選挙となりました。
蔵内勇夫氏が自ら県議選へ出ず、息子の蔵内謙氏などを後継候補として擁立すれば、本人への批判と地元の政治基盤を切り分けることができます。
後継候補は「新しい政治」を掲げながら、蔵内氏が築いた後援会、支援団体、自民党関係者とのつながりを引き継ぐことも可能です。
蔵内勇夫氏が引退したからといって、蔵内家の政治的影響力まで直ちに消えるとは限りません。
2016年の福岡6区補選で蔵内謙氏がどのような支援を受け、鳩山二郎氏と争ったのかについては、別記事で詳しく整理しています。
関連記事:蔵内謙が出馬した2016年福岡6区補選と蔵内家・鳩山家の対立
まとめ
蔵内勇夫県議の地元である筑後市選挙区では、2023年まで20年間、県議選の選挙戦が行われませんでした。
蔵内氏は選挙に勝ち続けてきたのではなく、2007年から2019年まで4期連続で無投票当選していたのです。
そして2023年、20年ぶりに選挙戦が行われると、蔵内氏の得票率は54.6%にとどまり、無所属新人の北島一雄氏との差はわずか1,652票でした。
蔵内氏が強固な政治基盤を持っていることは確かです。しかし、そのことと、筑後市民から圧倒的な支持を受けていることは同じではありません。実際に選択肢が示されると、投票者の45.4%が蔵内氏ではない候補を選びました。
20年間の無投票が示していたのは、蔵内氏への圧倒的な支持ではなく、対抗馬が現れにくく、有権者が別の候補者を選ぶ機会を持てない政治構造だった可能性があります。
北島氏は2023年の公開討論会で、一部の政治家に権限と権力が集中すれば、その意向に反することを言えなくなると訴えました。現在、福岡県議会では、蔵内氏を中心とする権力構造そのものが問われています。
だからこそ、北島氏が選挙戦で発した言葉は、いま改めて読み直す必要があります。
福岡県議会をめぐる問題について、最後は選挙で有権者が判断すべきだという意見もあります。しかし、選挙は候補者がいて初めて選択の場になります。
次の県議選で県政を正すことができるかどうかは、有権者がどの候補に投票するかだけでなく、そもそも別の選択肢が示されるのかにかかっています。
蔵内勇夫氏が長年にわたって福岡県議会や自民党福岡県連でどのような役職を務め、影響力を築いてきたのかについては、別記事で詳しく整理しています。
また、蔵内氏を含む福岡県議会の海外視察問題では、県議会内部の慣行や、議会幹部に権限が集中してきた構造が問われました。
さらに、議長選をめぐる金銭授受疑惑では、県議会の人事や権力形成がどのように行われてきたのかという、より根本的な問題が浮かび上がっています。
20年間無投票だった筑後市県議選と、現在報じられている一連の問題は、まったく別の出来事ではありません。
一人の政治家に長期間、強い影響力が集中したとき、選挙、議会運営、人事、政策決定がどのような状態になるのか。
蔵内勇夫氏をめぐる問題は、その構造全体を問い直す必要があることを示しています。
こうした「選べない政治」の問題は、筑後市県議選だけに限りません。
久留米市でも市長選が無投票となり、有権者が市政の方向性を投票で選ぶ機会はありませんでした。
無投票当選が続けば、現職や有力候補にどれほどの支持があるのかだけでなく、どれほどの異論が存在するのかも見えなくなります。
候補者が現れにくい構造が続けば、一部の政治家や政治勢力に影響力が集中しても、有権者が選挙で修正することは難しくなります。
筑後市県議選と久留米市長選は別の選挙ですが、「選択肢が示されないまま当選者が決まる」という点では、共通する懸念があります。
福岡県議会をめぐる問題や、久留米市政、国政選挙とのつながりについては、久留米ジャーナルの政治・行政関連記事でも継続して整理しています。

