福岡県筑後市を中心に、みやま市にもまたがる県営筑後広域公園には、「ワンヘルス」をテーマにした3つのモニュメントがあります。
その事業費は、報道によると合わせて約3億5000万円です。
約3億5000万円のモニュメントとは、一体どのようなものなのでしょうか。
実際に筑後広域公園を訪れ、3つのモニュメントを見てきました。
現地で感じたのは、事前に「3億5000万円のモニュメント」と聞いて想像していたものとは、かなり印象が違うということでした。
広大な公園の中では決して目立つ存在ではありません。
そして、もう一つ疑問に感じたことがあります。
これらが「ワンヘルス」をテーマにしたモニュメントであることが、現地を訪れただけではほとんど分からないことです。
なぜ、ここに約3億5000万円をかけてモニュメントが造られたのでしょうか。
筑後広域公園に造られた3つのモニュメント
筑後広域公園では2022年、エントランスエリアと体験エリアに新たなモニュメントが完成しました。福岡県議会の記録でも、同年10月16日に完成記念式典が行われたことが確認できます。
整備されたのは、主に次の3作品です。
「ワンヘルス・カーボンゲート」
「石龍」
「カーボン・ハット」
3作品は一か所にまとまっているわけではありません。
石龍とワンヘルス・カーボンゲートは比較的近くにありますが、カーボン・ハットは筑後船小屋駅側の別エリアにあります。
筑後広域公園自体が非常に広いため、徒歩ですべてを見て回るとなかなか大変です。
隈研吾氏が手掛けたワンヘルス・カーボンゲート
3作品の中で最も象徴的なのが、「ワンヘルス・カーボンゲート」です。
設計には、国立競技場などで知られる建築家・隈研吾氏が関わっています。
隈研吾建築都市設計事務所によると、炭素繊維を使った二重らせん状の構造によって、「人と動物の健康と環境の健全性は一つ」というワンヘルスの理念を形にすることを目指した作品です。
公表されている寸法は高さ約7メートル、幅約9.5メートルです。特殊な炭素繊維技術を用いた構造物で、金属では重量面で成立しないため、CFRPと呼ばれる炭素繊維強化プラスチックが使用されています。
技術的には非常に特徴のある構造物であることは分かります。
しかし、実際に現地で見ると、細い骨組みで構成された透過性の高いデザインであることや、周囲の公園が広大であることから、数字ほどの大きさや存在感は感じませんでした。
石龍は何を表しているのか
カーボンゲートの近くには、龍をかたどった「石龍」があります。
頭部と尾が地面から姿を現し、その間をカーボンゲートのらせん構造がつなぐようにも見えます。
写真だけを見ると巨大な龍のモニュメントを想像するかもしれませんが、実際にはそれほど大きなものではありません。
少し離れて見ると、広い芝生の中に置かれた一つのオブジェという印象です。
もちろん作品としての評価は人によって異なります。
ただ、何も知らずに訪れた人が、この龍を見て「ワンヘルス」を連想することは難しいのではないでしょうか。
筆者自身、事前に調べていなければ、これが龍を表した作品であることすら分からなかったと思います。
頭部と尾が離れて配置され、胴体も一続きには見えないため、説明がなければ石造りの抽象的なオブジェにしか見えませんでした。
筑後船小屋駅側にあるカーボン・ハット
もう一つの作品が「カーボン・ハット」です。
こちらは石龍やカーボンゲートから離れた、筑後船小屋駅側のエリアに3基あります。
透明な膜を張った円錐形の構造物ですが、実際に現地で見た第一印象は、「ビニールハウスのようなものだろうか」という程度でした。
事前に作品名や目的を知らなければ、これがワンヘルスを表現したモニュメントであることは分かりません。そもそも何のための構造物なのかも、筆者にはすぐには理解できませんでした。
公園の広い風景の中に溶け込んでいるというより、説明のないまま置かれた用途不明の設備にも見えます。
事前に場所を知らなければ、これが約3億5000万円のモニュメント事業の一部だとは気づかない人もいるでしょう。
筆者も3作品を探して公園内を移動しましたが、筑後広域公園が非常に広いため、作品同士のつながりは現地では感じにくいものでした。
3作品で約3億5000万円
これら3作品の事業費は、報道では合わせて約3億5000万円とされています。
ただし、筆者が確認した範囲では、
「カーボンゲートにいくら」
「石龍にいくら」
「カーボン・ハットにいくら」
という作品別の詳細な費用内訳までは確認できませんでした。
特殊な炭素繊維を使用した構造物であり、設計や製作、施工にも高度な技術が必要だったことは分かります。
隈研吾建築都市設計事務所も、カーボンゲートについて構造の最適化によってコスト削減と工期短縮を図ったと説明しています。
それでも、実際に3作品を見て回った後に残ったのは、
なぜ、この3作品に約3億5000万円が必要だったのか
という疑問でした。
そもそも何のために造られたのか
福岡県が推進しているワンヘルスとは、人の健康、動物の健康、環境の健全性を一体として考える理念です。
筑後広域公園のモニュメントも、このワンヘルスの理念を表現するものとして整備されました。
カーボンゲートについても、設計者側はワンヘルスの理念を「実体化」することを目指したと説明しています。
理念そのものには理解できる部分があります。
しかし、普及や啓発を目的とするのであれば、見た人にその意味が伝わる必要があります。
筆者が現地を訪れた際、少なくとも石龍やカーボンゲートを見ただけでは、なぜこれがワンヘルスなのか理解できませんでした。
ワンヘルスとは何か。
なぜこの場所にモニュメントを造ったのか。
3つの作品にはどのような意味があるのか。
そうしたことを来園者に分かりやすく伝える説明があれば、受け止め方も変わるかもしれません。
しかし、筆者が現地を歩いた限りでは、モニュメントを見ただけでその理念まで理解することは困難でした。
ワンヘルスを知らない人にとっては、「変わったゲート」「龍のようなオブジェ」「ビニールハウスのような何か」で終わってしまう可能性があります。
蔵内勇夫氏とワンヘルス
このモニュメントを考えるうえで外せない人物が、福岡県議の蔵内勇夫氏です。
蔵内氏は獣医師であり、日本獣医師会会長としてもワンヘルスを長年推進してきました。
そして筑後広域公園がある筑後市は、蔵内氏の地元選挙区です。
福岡県ではワンヘルスを県政の重要政策として進めており、現在はみやま市に「ワンヘルスセンター」の整備も進められています。県は2027年度中の供用開始を目指しています。
つまり、筑後広域公園のモニュメントは単独の公共アートとして見るだけでは、その全体像が見えてきません。
蔵内氏が推進してきたワンヘルス。
福岡県が進めてきたワンヘルス政策。
そして筑後地域に整備されたワンヘルス関連施設。
こうした流れの中に位置するモニュメントと見る必要があります。
ただし、蔵内氏自身がこのモニュメントの発注や金額決定を行ったという意味ではありません。
誰がどの段階でどのような判断をしたのかについては、別途、公的資料を丁寧に確認する必要があります。
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2025年福岡県知事選でもワンヘルス政策が争点に
2025年の福岡県知事選では、ワンヘルス政策や関連する公費支出に対して批判的な主張をする候補もいました。
特に、約3億円を超えるモニュメントについては、ワンヘルス政策に対する批判の象徴の一つとして取り上げられました。
一方で、現職の服部誠太郎氏は再選しました。
選挙結果だけを見れば、ワンヘルス政策への批判によって県政が転換したわけではありません。
しかし、モニュメントを含むワンヘルス関連事業に対して、「なぜこれだけの公費を投入する必要があるのか」という疑問が存在していたことは確かです。
実際に3つのモニュメントを見て感じたこと
筆者は今回、3つのモニュメントを実際に見て回りました。
率直に言えば、「約3億5000万円のモニュメント」と聞いて想像していたものとは違いました。
豪華すぎるという印象ではありません。
むしろ反対です。
広大な筑後広域公園の中では、3作品はいずれもそれほど目立ちません。
石龍とカーボンゲートは一緒に見ることができますが、カーボン・ハットは離れた場所にあります。
3作品が一つのワンヘルス事業として整備されたことも、現地を歩くだけでは分かりにくいものです。
そして最も気になったのは、これらを見ることでワンヘルスという理念がどれほど伝わるのかという点でした。
公共アートとして評価するのであれば、また別の議論があります。
しかし、ワンヘルスの普及や啓発という目的があるのであれば、作品を置くだけでなく、その意味を伝える仕組みも必要ではないでしょうか。
まとめ|「反省」で終わらせていい問題なのか
筑後広域公園のワンヘルス・モニュメントには、約3億5000万円の事業費が投じられたと報じられています。
しかし、なぜこの規模の費用が必要だったのか。
3作品それぞれにいくらかかったのか。
どのような経緯で計画され、誰がその内容や規模を決めたのか。
筆者が確認した範囲では、こうした疑問に対する全体像はまだ十分に見えてきません。
実際に現地を訪れたからこそ、なおさら疑問は残りました。
約3億5000万円という金額に対して、3作品は広大な公園の中で決して目立つ存在ではありません。
また、モニュメントを見ただけでは、それがワンヘルスとどのような関係にあるのかも分かりにくいものでした。
これは、現在の福岡県政や県議会をめぐる一連の問題とも重なるように思えます。
問題が指摘される。
批判が起きる。
そして「反省」という言葉は出る。
しかし、県民が本当に知りたいのは、反省しているかどうかだけではありません。
なぜそうなったのか。
誰がどのように判断したのか。
公費の使い方として適切だったのか。
その具体的な説明ではないでしょうか。
反省を表明することと、疑問に答えることは別です。
約3億5000万円が妥当な金額だったというのであれば、その根拠を説明すればいいはずです。
疑問への具体的な回答が示されない限り、問題が解決したとは言い難いでしょう。
筆者が実際に3つのモニュメントを見て回った後にも残ったのは、一つの単純な疑問でした。
このモニュメントは、何のために約3億5000万円をかけて造られたのか。
そして、その問いに対する答えは、現地を歩いただけでは見つかりませんでした。
