第八話 並んだままの朝

連載小説
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目が覚めたとき、最初に感じたのは静けさだった。

夜は確かに越えたはずなのに、部屋の空気は思いのほか穏やかで、拍子抜けするほどだった。

隣で、真依が眠っている。

カーテンの隙間から光がもれる。
白いシーツに、淡い線を引く。

真依がゆっくり目を開ける。

一瞬、ここがどこなのか探す顔。
そして思い出す。

「あ……朝か」

店の声ではない。
飾らない、少し低い声だった。

「おはよう」

男はそう言う。
声が少しだけ掠れている。

「おはよう」

短い返事。
だが、その短さが心地いい。

昨夜、確かにひとつになった。
それは疑いようがない。

けれど朝は、別の問いを運んでくる。

(俺たちは、どこへ向かうのか?)

真依はベッドから起き上がり、カーテンを少し開ける。
久留米の朝が、何事もなかったように始まっている。

車の音。
点滅する信号。
通勤する人影。

世界は変わっていない。
変わったのは、二人の間の“何か”だけだ。

昨夜の高揚は消えていない。
だが代わりに、静かな責任のようなものが胸にある。

「今日、どうする?」

軽い調子。
だが、そんな真依の問いの奥に、小さな不安があることを、男は知っている。

「昼は空いてる」

そう答えながら、男は思う。

未来を約束する言葉は、簡単だ。
だがそれを守れなかった過去を、もう一度繰り返したくはない。
だから強い言葉は選ばない。

真依は少し笑う。

「そっか」

チェックアウトの時間が近づく。
服を着る音が、現実を呼び戻す。

エレベーターの中、真依の肩がわずかに触れる。
それだけで、昨夜の温度が蘇る。

ホテルの外に出ると、空気は冷たい。
夜の甘さを薄めるような、澄んだ朝。

真依は小さく息を吸う。

「なんか、変な感じ」

「どっか行く?」

男は聞く。
別れの流れを、さりげなく断ち切るように。

真依は少し考えてから言う。

鳥類センターとか?」

その響きが、妙に明るい。

「いいね」

男は、即答した。

つづく

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