第七話 越えた夜の静けさ

連載小説
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六ツ門商店街から通りを一本入ると、人影はまばらになった。
自動販売機の光が、二人の影を長く伸ばす。

入口の前で、一瞬だけ足が止まったが、もうどちらも引き返す理由を探さなかった。

パネルの前で部屋を選ぶ。
エレベーターの中で、二人は小さく息を吐いた。
部屋番号の前で、男がキーを差し込む。
ドアが閉まり、ロックの音が鳴る。

街の音が遠くに消える。
部屋の中には二人の呼吸だけが残る。

お互いが一歩、近づく。
指先が絡む。
呼吸が近い。

ふいに真依が、男の顔を見つめた。

「また何か考えてる?」

「少し」

真依は一瞬だけ間を置き、こめかみに指を当てる。

「小脳も、大事よ」

ゆっくりと触れると、抑えていたものが、静かにほどけていく。

唇が触れる直前、部屋の空気がわずかに震える。
真依の唇は、思っていたより柔らかく、思っていたより熱い。

男の指が、背中を探る。
触れ合うたび、境界が一枚ずつ消えていく。
真依の息が、少し乱れる。
吐息が近くで混ざり、互いの体温が、はっきりと伝わる。

「……今、同じだね」

重なると、熱は、ゆっくりと上がり、やがて確かな頂点に触れる。

男が先に息を吐く。
真依の指が、ゆっくりと力を込める。

やがて、波は静まり、部屋に別の静けさが戻る。
呼吸だけが、まだ少し速い。

真依は目を閉じ、しばらく動かなかった。
男も、何も言わない。

重なった二つの心音だけが、静かに、部屋を満たしていた。

つづく

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