第三話 バーカウンター1枚分の距離

久留米連載小説
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家に帰って、シャワーを浴びて、テレビ画面をつける。
男にとっては、いつもと同じ夜だった。

特別なことは何もしていないのに、頭のどこかで真依とすごした昼の久留米が引っかかっていた。

何も起きなかった。
それは、はっきりしている。

でも、何もなかった、とは言い切れなかった。

真依からメッセージが届いたのは、翌日の夕方だった。

「昨日は、ありがとうございました」

それだけだった。
短くて、他人行儀で丁寧、感情の温度が分からない文章だった。

少し近くなった距離感を、また元に戻された気がした。
バーカウンター1枚分の、いつもの、あの距離に。

「こちらこそ。時間作ってくれて、ありがとう」

それから、やり取りは自然に続いた。
お互い何か確信めいたことを言うわけでもない。

どれも、どうでもいい内容だった。
でも、途切れなかった。

文化街の話は、どちらからもしなかった。
夜の話を持ち出すと、何かが壊れそうな気がした。

数日後、男の方からメッセージを送った。

「来週、時間ある?」

会いたい、とは書けなかった。
返事が来るまでの時間が、やけに長く感じられた。

「少しなら」

具体的な日時を決める。
場所は、まだ決めない。
決めなくてもいい気がしていた。

「じゃあ、来週!」

男は、送信ボタンを押したあと、少しだけ息を吐いた。

これは、恋だろうか?
そう呼ぶには、まだ早い。
でも、終わった関係でもない。

文化街の夜から始まった“何か”が、いつの間にか、昼の生活の中に入り込んでいた。

その微妙な変化。

それだけで、男には、十分だった。

つづく

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