久留米の文化街の入口に、「恋しや」という店がある。
多くの人がその存在は知っているが、何の店なのかはよくわからない。
外から見ても、スナックなのか、バーなのか、居酒屋なのか判断がつかない。
ただ、店の前を通ると歌声が聞こえる。
文化街の入口で、誰かが歌っている。
店の中は広くない。
席は10人ほどでいっぱいになる小さな空間だ。
年配の女性が一人いるが、いわゆるスナックのママのような接客はしない。
客同士が話し、誰かが歌い、誰かが聴く。
ドラムも置いてある。
誰かが叩くこともあれば、ただ置いてあるだけの日もある。
平日はカラオケスナックのような空気で、土日になると中年や高齢のバンドがライブをする。
店の客層も面白い。
80歳くらいの常連が演歌を歌うこともあれば、若い客がJ-POPを歌うこともある。
ジャンルは関係ない。
上手ければ、みんな褒める。
そして誰かが歌い始めると、店の人たちはちゃんと聴く。
常連の若者もいる。
彼は店に来ると、毎回同じJ-POPのバラードを一曲だけ歌って帰る。
それが終わると拍手が起きる。
そしてまた静かな時間が戻る。
カラオケの店なので、歌っているときは賑やかだ。
しかし歌が終わると、不思議と静かな空気になる。
その繰り返しで、店の時間が流れていく。
文化街には多くの店があるが、この店にはどこか良心のようなものを感じる。
歌う人がいて、それをちゃんと聴く人がいる。
ただそれだけの店だ。
文化街の入口には、今も歌声がある。
文化街には、いろいろな夜がある。
歌う人もいれば、ただ通り過ぎる人もいる。
そんな文化街を舞台にした物語もある。

