第九話 光の中の二人

連載小説
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鳥類センターの入り口は、家族連れでゆるく賑わっている。

ベビーカー。小さな子ども。鳥の羽音。

真依は笑う。

「平和だね」

その横顔を見ながら、男は思う。
昨夜の彼女も真依だった。
今、太陽の下で笑っている彼女も真依だ。

どちらも嘘ではない。

池の水面が光を返す。
フラミンゴが片脚で立っている。

「見て、あれ」

真依が男の腕を軽くつかむ。
その仕草は自然だった。
夜の続きでも、演技でもない。

男は、自分の中の何かが緩むのを感じる。

ベンチに腰を下ろす。
冬の陽射しが、やわらかい。

真依はペットボトルの水を飲みながら言う。

「昨日、変だったよね、わたし」

男は首を振る。

「変じゃない」

少し間を置いてから、続ける。

「ちゃんと、選んでた」

真依はその言葉を、すぐには返さない。
ただ、小さくうなずく。

昨夜の心音は、もう激しくはない。
だが確かに、同じリズムで鳴っている。
薄暗い夜ではなく、光の中に立っても、まだ隣にいる。

「こういうの、久しぶり」

真依が、笑顔で言った。

“久しぶり”という言葉が、男の胸に小さく刺さる。

(俺は、特別なのか? それとも、他の客と同じなのか?)

池の水面が揺れる。
白い鳥が羽を広げる。

真依は立ち上がり、柵にもたれながら言う。
「なんか、普通のデートみたいだね」

男は笑う。
「普通、っていいね」

その言葉は、軽い。
けれど、願いが混じっていた。

子どもが走り抜ける。
鳩が驚いて飛び立つ。

空は高く、雲は薄い。

真依がふと、男の腕に触れる。
昨夜の延長ではない。
ごく自然に。

その触れ方が、いちばん深くて愛おしい。

「お腹すいた」
真依が言う。

「何食べる?」

「やりうどんとか?」

「丸星ラーメンとか?」

二人は、笑い合う。

昨夜の熱は、もう静かだ。
代わりに、並んで歩くリズムがある。

出口へ向かう道。
影が二つ、同じ方向に伸びる。

身体を重ねたことよりも、こうして並んで歩けることのほうが、ずっと確かな証のように思えた。

久留米の空は、まぶしいほど青い。

そして二人は、まだ隣にいる。

つづく

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