第一話 文化街からはじまる恋もある

連載小説
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文化街に飲みに行く理由なんて、だいたい決まっている。

仕事のストレスとか、寂しさとか、そういうもっともらしい言い訳は後付けだ。

本音を言えば、少し若い女と話したい。
できれば、嫌われずに。
あわよくば、店の外でも。

男は四十代半ばで、久留米に住んでいる。
結婚は失敗した。
夢も一通り諦めた。
だから文化街に来る。
ここは、まだ自分が完全に終わっていない気ができる場所だからだ。

真依と出会ったのは、そんな夜だった。

文化街のガールズバー。
店名はどうでもいい。
どれも似たようなもので、照明が暗くて、1時間3000円程度、女の子がそれなりに愛想がいい。

真依は、その中では少し地味だった。
若すぎない。
派手すぎない。
バカっぽくもないが、かしこすぎもしない。

(このくらいが、ちょうどいい)

男はそう思った。
文化街で働いている女に、夢を見るほど、もう若くはない。
でも、完全に割り切れるほど大人でもない。

真依は、いかにも「慣れている」感じだった。
男の話をちゃんと聞くし、適度に相槌を打つ。
距離を詰めすぎないくせに、完全には引かない。

「プロっぽい人だな」

心のどこかで、男はそう分類しようとしていた。
どうせ店の外では会わない。
どうせ期待するだけ無駄だ。

なのに、何度か通ううちに、気持ちが変化していった。

久留米の話。
どこが住みやすいとか、どこがつまらないとか。
文化街の客の「あるある話」とか。

真依は、文化街を美化しない。
「夢あります」なんて言わない。
その代わり、現実も笑って流さない。

それが、男には妙に引っかかった。

閉店間際、店の空気がゆるむ。
女の子たちも、客も、少しだけ本音が漏れる時間。

「正直、昼の文化街って、見たくないよね」
真依が、そう言った。

「それ、分かる」
男は、即答した。

久留米に住んでいれば、昼の文化街がどんな場所かは知っている。
夜の期待が、全部剥がれた後の無残な残骸。

「昼の文化街は、ちょっとみじめだよね。まるで厚化粧を落とした後のおばさんの顔みたい」

その言葉に、男は笑った。
笑ってしまった自分に、少し驚いた。

(ああ、この子、ちゃんと分かってる)

店を出ると、文化街は相変わらずだった。
ネオン、呼び込み、酔った声。
いつもと同じ風景なのに、今日は少しだけ違う。

真依がドアの外まで見送りに出てきた。

どうせダメ元だ。
そう思ったから、言えた。

「今度、店じゃなくて、外で会わない? あっ、同伴じゃなくて」

期待していないふりをしながら、期待しているのが自分でも分かる言い方だった。

真依は、すぐには答えなかった。
でも、はっきり断りもしなかった。

「…いいよ」

軽い返事。
深い意味はないかもしれない。

それでも男は思った。

(まだ、人生は終わってないかも…)

文化街の夜は、いつも通りに続いていた。

ただ一つ、いつもと違ったのは、男がもう「ただの客」ではなくなる可能性が出てきたことだけだ。

つづく

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