第二話 普通の場所で、普通に会っただけなのに

連載小説
この記事は約2分で読めます。

昼に会うのは、最初から決め事みたいなものがなかった。

「少しなら時間あるから、散歩でもする?」

真依がそう言ったのは、前日の夜だった。
LINEで届いたその言葉は、どこまで本気なのか分からない、少し変わった誘いに聞こえた。

西鉄久留米駅で落ちあうと、昼の街はやけに現実的だった。
人が多くて、誰もこちらを見ていない。
夜の店で目の前にいた距離感は、ここでは自然に離れてしまう。

「人多いね」

「一応、久留米の中心だからね」

そんな、どうでもいい会話をしながら、一番街商店街の方へ歩く。
目的もなく歩くには、ちょうどいい。

真依は、夜とはまるで違って見えた。
ただの、同じ街に住んでいる女の人。
それが、なぜか文化街で見る彼女よりも気になった。

「ここ、前から気になってたんだよね」

商店街の途中で、真依が足を止めた。
化石や鉱石が並んでいる、小さな店だった。

「入る?」

「……久留米にこんな店あったっけ」

「あるよ。前から」

中に入ると、時間が少しだけ止まった感じがした。
アンモナイトだとか、よく分からない石だとか。
買う気もないのに、二人で眺める。

「子どもの頃、こういうの好きな男の子だった?」

「いや、全然」

「わたし、結構見ちゃうんだ。意味ないのに」

意味がない。
その言葉が、この時間そのものを指しているみたいで、男は少し笑った。

「岩塩だけ買って帰ろ」

真依は、店先に置かれていた岩塩の袋を買った。

「それ、どうするの?」

「お風呂に入れるの」

不思議な人だな、と男は思った。

店を出て、東町公園まで歩いた。
ベンチに座ると、昼の風が思ったよりも涼しい。

「ちょっと、何か買ってこようか?」

真依が立ち上がって、目の前のセブンイレブンに向かう。
戻ってきた手には、ペットボトルと、小さなスイーツがあった。

二人で分け合って食べる。
デートというほどのものでもない。
でも、文化街の夜よりも、ずっと緊張していた。

シティプラザの方へ歩くと、真依が少しだけ歩調を落とした。

「この辺、もうすぐ家なんだけど」

それは、ただの事実を伝える言い方だった。
誘いでも、拒絶でもない。

男は一瞬、言葉を探した。

「家、行っていい?」

その一言が、どうしても出てこなかった。

「じゃあ、今日はこの辺で」

代わりに、そんな無難な言葉を選んだ。

「うん。またね」

真依は頷いて、軽く手を振った。

それだけだった。

何も起きなかった。
触れもしなかったし、約束もしていない。

それでも男は、別れたあとに思ってしまう。

――終わった、とは思えない。
――でも、始まったとも言えない。

昼の久留米は、何も約束しない。
ただ、可能性だけを残して、あっさりと終わる。

その曖昧さが、文化街の夜よりも、ずっと厄介だった。

つづく

タイトルとURLをコピーしました