「久留米には観光地が少ない」と言われることがあります。
しかしそれは、まだ“本当の久留米”を知らない人の言葉です。
ここ久留米には、日本近代絵画を代表する二人の巨匠――青木繁と坂本繁二郎が青春を過ごした街並みが、今も静かに息づいています。
彼らの原点をめぐる聖地巡礼の旅は、ただの観光ではなく、芸術と人生の交差点を歩く体験です。
青木繁と坂本繁二郎 ― 久留米が生んだ二つの才能
二人の共通点と対照的な人生
青木繁(1882–1911)と坂本繁二郎(1882–1969)は、どちらも久留米市生まれの同い年。
幼少期から互いに切磋琢磨しながら、後に日本美術界に大きな足跡を残しました。
青木は、わずか28年という短い生涯で「海の幸」「わだつみのいろこの宮」など、神話的でドラマティックな名作を残しました。
一方の坂本は、長い人生を通して「静謐の画家」と呼ばれ、牛や月をテーマにした写実と抽象のあいだを歩み続けました。
対照的でありながら、同じ故郷を原風景として持つ二人。その足跡をたどることで、久留米という街が「芸術を育てる土地」であった理由が見えてきます。
聖地巡礼の前に押さえておきたい久留米のアート文化
久留米は、古くから文化と教育の町として知られ、石橋文化センターや久留米市美術館を中心にアートの息づく街並みが形成されています。
実際、青木と坂本の作品や遺品、交流の記録は久留米市内に点在し、徒歩圏内で多くの聖地をめぐることができます。
また、2019年・2022年には「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」展が久留米市美術館で開催され、全国の美術ファンが再び久留米に集まりました。この巡礼ルートを歩くことは、日本近代美術の原点を歩く旅でもあるのです。
【第1スポット】坂本繁二郎生家 ― 武家屋敷に息づく静謐の美
江戸から明治へ、時代を見守った家屋
まず訪れたいのが、坂本繁二郎生家(久留米市京町)。
明治初期に建てられた武家屋敷で、白壁と庭の構成が美しく、まるで一枚の絵画のような佇まいです。
平成の時代に復元整備され、内部では坂本の幼少期の記録や、青木繁との交流資料が展示されています。
- 所在地:福岡県久留米市京町224-1→MAP
- 開館時間:10:00~17:00(月曜休)
- 入館料:無料
- アクセス:JR久留米駅西口から徒歩5分
内部には、青木繁が一時期ここに滞在し、襖に描いたと伝わる絵の複製も。
幼なじみとしての絆を象徴する場所です。
風にそよぐ竹の音や、障子越しの光が差し込む空間に身を置くと、彼の静謐な画風の源を感じられるでしょう。
【第2スポット】青木繁旧居 ― 若き天才が描いた夢の原点
坂本の家から徒歩15〜20分、久留米市荘島町にあるのが青木繁旧居。
青木が17歳まで過ごした木造二階建ての家で、彼の原点とされる場所です。
当時の生活空間が忠実に再現され、初期スケッチや生涯年表、写真パネルなどが展示されています。
- 所在地:福岡県久留米市荘島町431→MAP
- 開館時間:10:00~17:00(月曜休)
- 入館料:無料
- アクセス:西鉄バス「本町」「荘島」停留所から徒歩5分
「海の幸」を描いた青木繁が、少年時代に見上げた筑後川の夕暮れや、有馬山の稜線。
それらはすべて、この家の近くにありました。
まさに“魂のふるさと”と言える場所です。
【第3スポット】久留米市美術館 ― 二人の作品が再び交わる場所
聖地巡礼の締めくくりに訪れたいのが、久留米市美術館(石橋文化センター内)。
季節ごとに多彩な展覧会が開かれ、青木・坂本の作品も定期的に展示されます。
「生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎」展では、久留米という共通の風土から生まれた“対照的な二つの美”が並び立ち、観る者に深い感動を与えました。
- 所在地:久留米市野中町1015
- 開館時間:10:00~17:00
- 入館料:一般1,000円(企画展による)
- 駐車場:無料(石橋文化センター共用)
館内のカフェや庭園も人気。
池のほとりのベンチで休憩しながら、久留米が育んだ芸術の息吹を感じてください。
聖地巡礼モデルコース(1日プラン)
時間帯 | スポット | 内容 |
---|---|---|
9:30 | JR久留米駅出発 | 観光案内所で地図を入手 |
10:00 | 坂本繁二郎生家 | 屋敷・庭園見学(約40分) |
11:00 | 青木繁旧居へ徒歩移動 | 約1.4km(徒歩17分) |
11:20 | 青木繁旧居 | 見学・写真撮影 |
12:30 | 昼食(市街地) | 久留米ラーメンまたは郷土料理 |
14:00 | 久留米市美術館 | 展覧会・庭園散策 |
16:30 | カフェ休憩・おみやげ購入 | アートポストカードなど |
17:30 | 駅へ戻り終了 |
ゆったり回りたい場合は、「半日プラン(午前=生家&旧居、午後=美術館)」もおすすめです。
久留米アート巡礼をもっと楽しむコツ
- 開館時間・休館日を事前に確認
- 写真撮影の可否は各施設でチェック
- 徒歩区間が多いため、歩きやすい靴を推奨
- 雨天時は傘よりレインコートが便利
- 平日午前が比較的空いていて静かに鑑賞できる
また、観光案内所では「青木繁・坂本繁二郎ゆかりの地マップ」を無料配布しており、地元スタッフによる解説付きツアー(要予約)もあります。
まとめ―二人の画家が残した「静かな情熱」
青木繁と坂本繁二郎。その生き方は、まるで光と影のように対照的でありながら、共に「久留米」という大地に根ざした魂を持っていました。
坂本の静かな筆致の中には、青木の燃えるような情熱が眠っている。
青木の荒々しい筆の奥には、坂本の冷静なまなざしが宿っている。
――この街を歩けば、その“二人の魂”が確かに感じられます。
久留米は、単なる地方都市ではなく、日本近代絵画の出発点でもあるのです。